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- 竜とそばかすの姫の感想と考察を知りたい
映画『竜とそばかすの姫』について
公開 | 2021年7月16日(金) |
制作 | スタジオ地図 |
原作・脚本・監督 | 細田守 |
声優 | 中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、他 |
公式HP | 詳細を見る |
あらすじ
高知県の田舎に住む、女子高生の鈴(すず)は、幼い頃に事故で母親を亡くし、父親と二人暮らしをしている。母と歌うことが大好きだった鈴は、その死をきっかけに歌えなくなっていた。
ある日、全世界で50億人以上のユーザーが利用している、インターネット上の仮想世界「U(ユー)」に自分の分身である「As(アズ)」に「Bell(ベル)」と名付けて参加することになる。
Uの世界で、Asとしてならば歌うことが出来た鈴は、瞬く間にUの中で大人気の存在となる。
ある日、Bellが大規模コンサートを行っている途中に、謎の存在「竜」とそれを追う自警団「ジャスティス」のメンバーたちが現れて―――
ある映画のオマージュ
本作は、1991年のディズニー長編アニメーション映画である『美女と野獣』のオマージュが散りばめられています。
筆者が確認したオマージュシーンは以下です。
- Asとしての鈴の名前が「Bell(ベル)」であること
- また、Uの世界で親しみを込めて「Belle(美しいという意味で、美女と野獣のベルのつづりでもある)」とよばれていること
- 竜のキャラクターが乱暴で閉塞的な性格であり、野獣(Beast)とも言われていること
- 薔薇の花も話のポイントになっている
- 中盤にBellと竜のダンスシーンがあること
細田守監督はインタビューで自ら、本作は『美女と野獣』をモチーフにしていることに言及しています。
このことから細田守監督は、『美女と野獣』を『竜とそばかすの姫』に意識的に取り入れていることが伺えますね。
- 余談:『美女と野獣(1991)』をモチーフにしている他の映画
現実世界での鈴
鈴が幼い頃に、鈴の母親は、見ず知らずの少年を助けようと、流れの速い川に飛び込み亡くなっています。
「なぜ娘である私から離れ、命の危険を顧みず、知らない男の子を助けに行ってしまったのか」という思いがずっと残っている鈴。
鈴は母親をこの事故で亡くしてから、心に大きな傷を負っています。
映画で描かれる現実世界では、心を閉ざしている鈴の気持ちが生活の随所に見られます。
- 欠けたマグカップ、犬の脚
- 鈴は欠けたマグカップをずっと使っています。友達のルカちゃんが家に訪ねてきたときも、ルカちゃんにはお客さま用の綺麗なグラスを出すけれど、自分用には欠けたマグカップを使っているのです。
また、鈴が家で飼っている犬には片足がありませんでした。犬については特に言及はありませんでしたが、怪我をしたのでしょうか。
これらからも、鈴の現在の生活には母親を亡くしてからどこか欠けた気持ちがずっとあったのだと思いました。
- いつもある川の存在
- 物語の舞台は、高知県です。
作中によく出てくる川は「鏡川」と「仁淀川」。
鈴の横にはいつも川がある。
それは単に鈴の通学路であるからという理由もあると思いますが、鈴の母親が亡くなったのも「川」であり、切っても切り離せない川とともに鈴は生きているとも思いました。
細田守監督は、川のモチーフについて「映画.com」のインタビュー記事では以下のようにお話されています。
“ 実世界に川を登場させているのも同じ発想で、物語の舞台にした高知県には仁淀川と鏡川という2つの美しい川が流れています。そんな川にも美しいところと、濁流になって人が亡くなってしまうこともある両面があって、だからこそ川は人生にたとえられることもありますよね。 ”
引用:「竜とそばかすの姫」細田守監督が考える映画の時代性と海外映画祭の醍醐味:映画ニュース – 映画.com
細田守監督は、川の二面性に着目し、川は美しいところと悲しいことがある「人生」だとみているのですね。
鏡川
浅尾沈下橋
登場人物のAsは見つけた?
みなさんは、鈴やその親友ヒロちゃんだけでなく、他登場人物のAsを見つけましたか?
ルカちゃん → サックスを持った鳥
カミシン → カヌーを持った犬
しのぶくん → ?
知 → 竜のそばに居たクリオネ
合唱隊のおばさまたち → 形容できないけど確認しました
テーマ①トラウマの克服
『竜とそばかすの姫』のテーマの1つには、鈴が母親を亡くし歌が歌えなくなるほどの傷を負った「トラウマを克服すること」があると思います。
トラウマを克服することは、つまり、過去に起こった出来事の見方を変えることだと思います。
母親が亡くなった事故について、鈴の過去に対する見方は「何故、母親は私と他の子供を比べてその子を選択したのか」というもの。理由が分からないことに対するモヤモヤ感と、大きな悲しみがありました。
視聴者から鈴の母親の事故を見ても、決して自分の子供と他人の子供を天秤にかけているようには見えませんが、幼かった鈴はそう思ってしまったんですね。
しかし、鈴はUの世界で歌姫Bellとして新しい人生を始めることになります。そこで出会う謎の存在「竜」のオリジンを探し出して助けようと行動することで、鈴のトラウマへの見方が変わります。
なぜなら鈴も、母親が過去にそうしていたように、見ず知らずの子供たちを助けに、身の危険を顧みずに、1人で彼らの元に向かう行動に出ていたことに気づいたからです。
そこに何かと何かを天秤にかけてはいなかった。ここで、母親がなぜ他の子供を助けに行ってしまったのか分かったのだと思います。
映画の終盤、現実世界で歌うことができるようになった鈴も垣間見れます。
過去の出来事の見方を自らの体験をもって変えることができた、トラウマの克服でした。
テーマ②児童虐待
細田守作品の特徴の一つに、社会問題がファンタジーに取り上げられていることがあげられますよね。
本作品では、「児童虐待」についてでした。鈴が竜のオリジン恵を助けに行く前に、児童虐待相談の窓口に電話をいれたところ「48時間以内に確認します」と返ってきた台詞が印象的でした。
そのようなルールが設けられているのですね。
統計データをみると、
児童虐待の相談対応件数は年々増えており、令和1年度(2019年4月〜2020年3月)には約19万3000件にも上っていました。また、虐待で亡くなってしまう子供たちは、年間50人もいるそうで、1週間に1人は虐待死しているペースです。
参考:統計データ | 子ども虐待について | オレンジリボン運動
このことを知って、どのように感じるか思うかは自由です。このような実態を知ることだけでも、大事な想像力を育みますよね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
『竜とそばかすの姫』について、少しでも考えが深まったら幸いです。
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